近年では将棋ブームの再来により、将棋をあまり指されない方でも将棋の番組や記事を目にすることが多くなったのではないかと思います。その番組や記事の中で、「詰将棋」というコーナーを目にしたことが1度はあるのではないでしょうか?
本記事では、「詰将棋」とは何か?といったことや、その実用性、詰将棋の世界について簡単にまとめていきます。
詰将棋とは?
詰将棋を厳密に定義するのは難しいのですが、簡単に言ってしまえば、「王手の連続で相手玉を詰ますゲーム」と言えます。
通常の指し将棋も「相手玉を詰ますゲーム」であることは同じなのですが、決定的に違うのは「王手の連続で」という点です。
通常の指し将棋は、初手▲76歩、2手目△34歩のように、序盤はしばらく王手ではない手が続きますし、終盤になっても必ずしも王手をかけて王様を攻めるわけではありません。
しかし、「詰将棋」は、どれだけ相手玉を追い詰めていようが、王手でない手は指してはいけません。先手(「攻め方」=「読み:せめかた」という)は後手(「玉方」=「読み:ぎょくかた」という)に王手をかけ、後手はその王手を解除し、王手→王手を解除→王手…の繰り返しをすることにより、最終的に即詰みに打ち取る必要があるのです。
この記事をお読みになっている方の中には、「囲碁はわかるけど将棋は…」という方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は「詰碁」と同じようなものではないかと考えられているかもしれませんが、「詰碁」は「アタリ」(将棋で言うところの「王手」)の連続である必要がありませんし、相手の石を殺す以外に、自分の石を生かす作品も「詰碁」というため、「詰碁」と「詰将棋」は少し意味合いが異なります。また、チェスの「プロブレム」も、「チェック」の連続である必要がないため、少し意味合いが異なります。
詰将棋は、「3手詰」「5手詰」のように、必ず奇数の手数で詰ませられるようになっています。これは、先後が交互に指すことにより、最後は必ず先手が指して詰みあがるためです。入門者用の詰将棋では、1手~7手詰くらいの作品が多く書籍やネット等で出回っていますが、雑誌「詰将棋パラダイス」やそのアプリ版「スマホ詰パラ」等では、2桁の手数は当たり前で、中には100手を超える長手数詰将棋も多数存在しています。
詰将棋の有用性
詰将棋は、それ自体がパズルのような面白さを持っていると同時に、実際の指し将棋の棋力向上にも役立ちます。詰将棋を暗算(駒を動かさずに頭の中だけ)で解くことにより、読みの力を鍛えられますし、実戦型の詰め将棋を多数解くことによって、詰み形を覚えることができます。詰み形を覚えると、実戦で似たような形が生じた場合に、深く読まなくても「この局面は詰んでいる」と認識できるようになります。
このように、詰将棋を解く能力は実戦の能力と無関係ではないことから、プロ棋士が出版している詰将棋の作品等には「5分で初段」のように、解けた場合の棋力の目安が書いてあるものもあります。そのため、将棋を趣味にしているアマチュアはもちろん、プロの棋士たちですら、詰将棋を解いて自信の棋力を鍛えることもあります。
例えば、図1をご覧ください。
図1は、▲71角△92玉▲93銀△同桂▲82金までの5手詰めです。この形は実戦(特に対振り飛車)では多く登場することがあり、アマチュア有段の方であれば見た瞬間に詰ますことができるでしょう。しかし、将棋を始めたばかりの方は、初手で▲72と、と銀を取ってしまったり、3手目で▲82金と打ってしまうかもしれません。本図のような短手数で実戦型の詰将棋を多く解いていると、読まなくても詰み形が見えてくるようになります。「攻めていても相手玉を詰ますことができない」と悩んでいる方は、3手や5手等の丹手数の詰将棋の書籍を読むなどしてみてはいかがでしょうか?
※図1はサンプルとして出したので実際の美濃囲いに近い形になっていますが、91の香や94の歩は無駄な配置なので、詰将棋の「作品」としては不備があるものとなっております。
芸術作品としての詰将棋
詰将棋には実戦の力を鍛えるという面以外に、芸術作品としての一面があります。例えば、図2をご覧ください。
図2有名な古典詰将棋(昔から知られていて、作者不詳の作品)のうちの一つですが、こんな形が実戦で登場するわけはないので、これが解けたところで実戦に役に立つかどうかはわかりません。しかし、初形の面白い見た目や、香が4枚という持ち駒等、趣向(ユーモアのこと)が効いており、芸術作品として成り立っているのです。
続いて、図3をご覧ください。
これは、2018年現在、詰将棋の最長手数作品(1525手詰!)として知られる「ミクロコスモス」(詰将棋パラダイス・1986年6月号・橋本孝治作)です。この図も、実戦では到底出現しないような局面ではありますが、この作品を含め、長手数作品の多くは、途中の詰め手順や見た目、手数の長さ等の趣向を主張するような作品が多く発表されています。もちろん、そういった長手数の芸術作品ですら読みの鍛錬のために利用している方もいるとは思いますが(プロ棋士では100手を超える詰将棋を暗算で解いたという方もいらっしゃいます)、趣味で将棋をやっているレベルの人にとっては「ミクロコスモス」のような作品は、「実戦に役立てる」というよりは「芸術作品として鑑賞する」用途が一般的だと思います。
「こんなの実戦に何の役に立つの?」「実戦型の詰将棋だけで十分」という感想を持つ方も多数いらっしゃるとは思いますが、詰将棋の芸術性に少しでも興味を持っていただければと思います。
※図2の解答
▲52香△61玉▲72角△71玉▲81角成△82玉▲82香△71玉▲72香△61玉▲62香まで11手詰。
※図3の解答が気になる方は「ミクロコスモス」「詰将棋」等でネット上を検索してみてください。
詰将棋を作る人たち
詰将棋を作る人のことを、「詰将棋作家」と言います。詰将棋作家にはどのような人たちがいるのでしょうか?
通常の指し将棋の定跡書等であれば、その大半はプロの棋士が書いているか、そうでないものもプロが監修していたり、プロの棋譜を元に書いているものが大半です。しかし、詰将棋作家の大半はアマチュアです。書店においてある実戦型の詰将棋本はプロ棋士が書いているものも多いのですが、「詰将棋パラダイス」等の雑誌で優秀作品の賞をもらうような方は、大半がアマチュアの方です。それは別に、プロよりもアマチュアの方が詰将棋の才能があるというわけではなく、プロには「対局」という大切な仕事がある以上、詰将棋にばかり時間をかけていられないという事情もあるものと思われます。もちろん、プロ棋士の中にも芸術的な詰将棋をいくつも発表している方々もいらっしゃいます(谷川浩二九段、伊藤果八段、内藤國男九段等)。
将棋の棋士になるには、年齢制限、棋力等非常に厳しい条件が必要で、一般の将棋ファンにとっては狭き門でしょう。しかし、詰将棋作家にはアマチュアもプロも年齢制限もありません。詰将棋を作ってそれを発表すれば、程度の差こそあれ立派な詰め将棋作家の仲間入りです。かくいう私も(自称)詰将棋作家です。もちろん、関係者の誰もが知るような有名な詰将棋作家とは比べるべくもありませんが、「スマホ詰パラ」というアプリで20作以上(2018年現在)の私の作品が発表されていますので、「詰将棋作家」を自称するだけなら構わないでしょう。指し将棋でなかなか勝てない方でも、詰将棋作家として脚光を浴びることは十分に可能です。皆さんも、詰将棋を解くだけでなく創作に挑戦してみてはいかがでしょうか?
まとめ
詰将棋は、王手の連続で相手玉を詰ますゲームです。詰将棋の作品は、実戦の棋力向上に役立つものや、芸術作品として鑑賞できるような作品等、様々なものが書籍やアプリ等に存在しています。詰将棋を作る人のことを「詰将棋作家」と呼び、その多くはアマチュアです。
今回は「詰将棋とは何か」に焦点を当てて記事を書いたので、細かいルール等についてはあまり述べてきませんでしたが、次回以降は詰め将棋を解く、あるいは創作するにあたって必要なルールを紹介していきたいと思います。