詰将棋のルール・中級編~玉方の最善手は?~


前回の記事では、詰将棋のルールの基礎中の基礎を紹介してきました。

詰将棋のルール・基礎編~これだけは知っておきたい基本中の基本~
この記事では、詰将棋のルールの中でも、基礎的、かつ、非常に重要な内容を、実例を交えながら説明していきます。詰将棋の初心者の方にとっては必見の...

詰将棋を解くにあたって攻方の手を発見することはとても難しく、また、それが詰将棋の醍醐味でもあるのですが、それは攻方の手に限ったことではありません。

玉方の手(=王手を回避する手)が複数ある時に、どの手を選択するかというのもまた、詰将棋の難しさであり、面白さであります。

アプリの詰将棋だけを解いてきた人の中には、「玉方の手はアプリが勝手に動かしてくれるんだから、考えなくてもいいじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、管理人が愛用しているアプリ「スマホ詰パラ」をはじめ、多くの詰将棋アプリは、ユーザーは攻方の手を指せば、玉方の手は自動的に最善手を指してくるような仕様になっているものがほとんどです。

しかし、雑誌の懸賞詰将棋に応募する場合や、詰将棋選手権などにおいては、解答者は攻方の手はもちろんのこと、玉方の手も最善を選んで解答を導き出さないといけません。玉方が間違った対応をして、詰み手順を示したとしても、それでは正解にならないのです。

応募する場合でなくとも、書籍で詰将棋を解いたことがある方の中には、「解けたと思ったのに、正解として書かれている手順が、自分の考えた手順と違う」という経験を持つ方がいらっしゃるのではないかと思います。

本記事では、そういった方々のために、玉方の最善手をどのように決定するかというルールについて説明します。

玉方最長最善ルール

詰将棋のルールの全体像については、下記の記事に記述しました。

詰将棋のルール一覧
詰将棋を解いたことがある方は 「詰将棋が難しすぎて解けない。」 「解けたと思ったけど、相手の受けの好手を見逃して、間違えてしまっ...

そのうち、玉方の手に関するルールは、たった一行、以下のように記載しています。

  • 玉方が王手を回避する手が複数ある場合、最長で最善となる手を選択する。

簡単に書けばこれだけなのですが、これでは何を言っているのかわからない方がほとんどなのではないかと思います。

このルールを、もう少し段階的に、別の表現で書くと、以下のようになります。

  • 玉方は、王手の回避方法が複数ある場合、より手数が伸びる手段を選択する。
  • 同手数の回避方法が複数ある場合、攻方の持ち駒が余らない手段を選択する。
  • 同手数で駒が余らない回避方法が複数ある場合、どれを選んでも良い。(ただし、玉方が駒を取れる手を選ぶことが多い)

これでも、まだ少し難しい表現ですよね。この後、各項目とも、実例を交えながら内容について述べていきます。

玉方は、王手の回避方法が複数ある場合、より手数が伸びる手段を選択する。

本項は、玉方の手を選択をするにあたり、最も重要な項目になります。

図1の詰将棋をご覧ください。美濃崩しの典型的な練習問題です。

図1

図1

初手は▲74桂(図2)ですが、2手目で玉方は、玉をどこに逃げればよいでしょうか?

図2

図2

△91玉や△81玉と逃げるのは、▲82金で計3手で詰んでしまいます。

△71玉(図3)と逃げるのはどうでしょう?

図3

図3

これは、▲82銀△61玉▲62金、あるいは、▲62銀△81玉▲82金等いずれも5手詰。他にも詰まし方がありそうです。

△93玉(図4)は、▲82銀△84玉▲75金で計5手で詰みます。

図4

図4

△94玉(図5)は▲93香△同玉▲82銀△84玉▲75金で計7手で詰みます。

図5

図5

以上、図2からの玉の移動箇所が5カ所(81,91,71,92,93)ありますが、結論から言うと、正解は図5の△92玉のみで、残りの4つの場所に逃げる手は、全て不正解となります。

何故△92玉が正解になるのでしょうか?それは、玉が逃げた後の詰みの手数に関係します。

詰将棋において、攻方が王手をしたとします。その手が正解の場合、玉方はどんな手を指しても詰みを逃れることができません。そのような場合、玉方は、なるべく延命できる、すなわち、手数が長引くように逃げなければいけない、というルールがあるのです。これを、「玉方最長」と呼ぶことがあります。

図2の例で考えてみますと、△91玉や△81玉は3手詰でした。△71玉や△93玉は5手詰です。△92玉が唯一7手詰めになり、これが最も手数が長くなるため、正解となるのです。

ちなみに、正解手順のことを「作意手順」と言い、作意手順ではない玉の逃げ方(△91玉、△81玉、△71玉、△93玉)やそれ以降の手順の事を、「変化手順」と呼びます。

ここで少し難しい話になって恐縮ですが、注意が必要な点があります。例えば△71玉と逃げた図3から、▲82金△61玉▲62銀△52玉▲53銀成△51玉▲42成銀△61玉▲62香(図6)とした局面を考えてみましょう。図6までの手順は、計11手詰めになり、作意手順の7手よりも長くなります。

図6

図6

したがって、「△71玉だと11手、△92玉だと7手だから、△71玉の方が正解(作意手順)では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、そうはなりません。変化手順の手数の比較は、各変化手順において、攻方が最短で詰ました場合の手数を比較する必要があります(図7で赤色の下線を引いた手数を比較する)。

本項の詰将棋の例でしたら、△71玉▲82銀(または▲62銀や▲53角成)以下の計5手詰と、△92玉▲93香以下の計7手の順を比較し、後者の方が長くなるため、2手目の正解は△92玉であることがわかるわけです。△71玉▲82金以下の11手詰めは、攻方が最短で詰ましていないため、無視しても構いません。

「最短」とか「最長」とか出てきてこんがらがってしまう方は、「玉方はなるべく長引くように逃げる。攻方はなるべく早く詰むように詰ます」と覚えてしまうのがわかり易いのではないかと思います。

図7

図7

※ちなみに、▲82金以下図6までの、「変化手順の中で攻め方が最短ではない手順」のことを、変化手順の中でも特に「変化別詰」(変別)と呼びます。いわゆる「余詰」と呼び方は似ていますが、全く異なる概念になります。この辺の用語については、詰将棋の創作を目指す方以外にとっては、それほど重要ではありません。変化手順・変化別詰・余詰等の用語については、創作用の別記事で再度詳しく紹介しようと思います。

同手数の回避方法が複数ある場合、攻め方の駒が余らない手段を選択する。

さて、前項で挙げた詰将棋(図1)は、7手よりも短い変化手順はたくさんありましたが、作意手順以外で、7手となるような逃げ方はありませんでした。

では、図8の詰将棋を見てみましょう。

図8

図8

詰将棋と呼ぶには恥ずかしいような簡単な問題ですが、説明のための図として見ていただければ、と思います。

さて、図8の詰将棋の解答ですが、初手はもちろん▲33馬です。この手以外は詰みません。問題は、図9の局面での2手目です。

図9

図9

△31玉、△12玉、△13玉の3通りの応手がありますが、どれが正解でしょうか?

3通りとも、どのように詰ませられるかを考えてみましょう。

△31玉の場合は▲32銀と打って詰みます。

△12玉は▲23とで詰みます。

△13玉は▲23馬で詰みですね。

つまり、3パターンとも、計3手で詰むことがわかります。したがって、前項で述べた「より手数が伸びる手段を選択する。」(玉方最長)という判断が使えません。全ての変化で手数が同じだからです。

そこで、本項の「攻方の持ち駒が余らない手段を選択する。」というルールを使うことになります。3つの変化の中で、△31玉▲32銀という順は、唯一、攻方の駒が余りません(図10)。

図10

図10

他方、△12玉▲23と(図11)や△13玉▲23馬といった手順は、いずれも持ち駒の銀が余って詰んでしまいます。

図11

図11

このように、玉方の指し手を選択する際に、同じ手数だが攻方の持ち駒が余る手順と余らない手順がある場合、余らない順を選ぶのが正解となります。これを、「玉方最善」と呼ぶことがあります。(「玉方最善」は、前項の「玉方最長」も含めて呼ぶことが普通です。よって、単に「玉方最善」と言えば、2つのルールをまとめたものと考えて差し支えありません。)したがって、2手目△31玉、3手目▲32銀(▲42銀でもいいが…)の順が正解となり、2手目△12玉や△13玉は不正解となるわけです。

前項の「作意手順よりも手数が短くなる順」と同様に、本項のように「作意手順と同手数で駒が余る手順」の事も、「変化手順」と呼びます。(本項のような変化手順を、特に「同手数駒余り」と呼んだりもします)

つまり、「変化手順」の意味を文章で表すとすれば「玉方が、作意手順よりも手数が短くなるか、作意手順と手数が同じで攻方の持ち駒が余るような手を指した場合に、その手から派生する詰み筋全般」を指すことになります。ちょっと難しいですね。

同手数で駒が余らない回避方法が複数ある場合、どれを選んでも良い。

これまで、玉方の手の選択にあたっては、手数が最長となる順が正解で、最長となる順が複数の場合は、駒が余らない順を正解とする、ということを説明してきました(玉方最長・玉方最善)それでは、「最長で駒が余らない順が複数ある場合」はどうするのでしょうか?

図12をご覧ください。

図12

図12

またまた人を馬鹿にしたような図面で申し訳ありませんが、説明のための素材という事でご理解ください。

初手は▲31角成です。これに対して、2手目△同玉は▲32金(図13)までの詰み。また、2手目△12玉は▲13金(図14)までの詰み。

図13

図13

図14

図14

これらの手順は、いずれも計3手で詰んでおり、かつ、持ち駒も余りません。したがって、前項までのルールではどちらを選択すべきか判断できません。

実は、このような場合、どちらを選択しても正解とされています。ただし、慣習的には、玉方が駒を取る順であったり、先手側に妙手がある順を選ぶことが多くなっています。図12の詰将棋ですと、2手目△同玉とすれば角が取れるのに対し、△12玉としてしまうと馬を取れずに詰まされてしまいます。どうせ1手で詰まされるのなら、せめて馬を取ってから詰まされた方がマシというのは、直感的に理解しやすいかと思います。

図15はどうでしょうか?

図15

図15

▲34桂と王手したところですが、△11玉、△21玉、△31玉、△12玉のいずれも▲22金で詰んでしまいます。このような場合は、どれが最善かというのは直感的にもわからないので、4通りのどれを回答しても、間違いになることはまずありません。

図12や図15のように、玉方の選択肢の中に、最長手数で持ち駒が余らない手順が複数あることを、「変化同手数」略して「変同」と呼びます。変同という用語は、詰将棋を解くだけの人にとってはあまり重要ではありませんが、創作する側にとっては非常に重要な用語になりますので、創作のルールを紹介する際に記事としてアップしようと思います。

非限定合の場合

「同手数で駒が余らない回避方法が複数ある」場合の一種として、「非限定合」についても説明します。

図16をご覧ください。

図16

図16

初手▲24飛は△32玉とされて広い方に逃げられてしまうので、▲11角成!とカッコよく捨てます。△同玉の一手に、▲31飛成と王手して、図17。

図17

図17

図17で玉方は、合駒を21の地点に打つしかありません。例えば△21歩としますが、▲23桂までの5手詰みとなります(図18)。

図18

図18

図17では、△21歩の他に、△21香、△21桂等、計7種類の合駒を打つことができますが、いずれも▲23桂と打って詰まされてしまいます。このように、玉方の手が合駒で、しかも何を打っても同じ手順で詰む場合、「非限定合」または「合駒非限定」等と呼び、どの合駒を打っても正解となります。「非限定合」は、上で紹介した「変同」の特別な場合ですが、このようなケースで「変同」と呼ばれることはあまりなく、「非限定合」と呼ぶのが一般的です。

さて、どの合駒を打っても正解と言いましたが、この場合、慣習的には以下の2つのどちらかの解答をすることが多いです。

一つは、「▲11角成△同玉▲31飛成△21歩▲23桂」のように、歩を合駒する手を正解とするパターンです。これは「どれを打っても同じなら、なるべく弱い駒を打つ」という考え方に基づいたものです。もし△21歩が二歩で禁じ手であれば、△21香や△21桂と言った具合です。

もう一つは、詰将棋の独特の記法を使うパターンです。具体的には、「▲11角成△同玉▲31飛成△21合▲23桂」のように、「合」(あい)という文字を使います。このような書き方は、通常の将棋の棋譜ではありえませんが、詰将棋では「(ルール上打てる駒なら)どの駒でもいいので、合駒として打つ」という意味になります。

(この表記は、合駒が「限定」されている場合に使ってはいけません。例えば、金合だと5手詰だが、その他の合駒だと3手で詰んでしまうような局面の場合は、具体的に「金」と書く必要があり、単に「合」と書いてしまうと不正解になります)。

このように、「△21歩」や「△21合」と解答するのが一般的ではありますが、あくまで「一般的」というだけで、絶対そうしないといけないという決まりではありません。図17の場合であれば、「△21飛」と書いても、不正解になることはないでしょう。また、「△21歩合」のように、合駒であることがわかりやすいように、具体的な駒の後に「合」と書くこともあります。

まとめ

本記事では、玉方の応手が複数考えられる場合に、詰み手数が最長となるものを選ぶのが正解で、そのような順が複数ある場合は攻方の持ち駒が余らない手順を、それも複数ある場合はどれを選んでも良いことを説明しました。

ここまで紹介したことを覚えていれば、ほとんどの詰将棋について、(解くだけなら)知識的な問題はないと言えます。

というよりは、本記事で書いた具体的なルールを知らなかった方でも、本記事に掲載した程度の詰将棋であれば、無意識的に正解にたどり着けた方も多かったのではないかと思います。それは、玉方の正解手順以外の手が、直感的にも最善ではないと思える手ばかりだからです。例えば、「詰将棋は全く知らないが、通常の指し将棋はある程度指せる人」が、図2の局面で後手番を持ったら、間違っても△91玉や△71玉などとは指さないでしょう。

しかし、実際の詰将棋には、「直感的にはAの応手を選択したいが、詰将棋の問題としてはBと応じるのが正解」、といったケースも頻繁に登場します。

例えば図19。

図19

図19

図12との違いは、11の香がいるかいないかだけ。図12の時と同様に、「▲31角成△同玉▲32金の3手詰じゃないの?」、と解答したいところですが、残念ながら、これは不正解です。

正解は、▲31角成△12玉▲13金△11玉▲22金(または▲22馬)の5手詰めなのです。理由は簡単で、「△31同玉だと3手で詰んでしまうが、△12玉だと5手まで手数を伸ばせるから」。本記事で説明した「玉方最長」ですね。同様の理由で2手目△11玉も不正解です。

直感的には、「どうせ詰まされるなら馬を取って討ち死にしたい」と思うのが人情でしょうが、ルールは残酷。取れる馬を取らずに逃げるのが正解となってしまうのです。

将棋をある程度指せる人なら、図19を実戦で詰ませられないという事は、まずないでしょう。しかし、仮に有段者であっても、詰将棋のルールを全く知らない人であれば、図19を3手詰と解答し、「簡単な詰将棋の問題を解けなかった」という可能性は大いにありえるわけです。詰将棋を「解く」(=正解手順を導き出す)にあたって、棋力も当然大事ですが、ルールを知ることも非常に大事であることがわかります。

今回述べたように、玉方に複数の応手が存在するケースで、どの手が正解か迷った場合は、本記事で読んだことを思い出し、判断材料として使っていただければ幸いです。

次の記事では、攻方に複数の指し手が考えられる場合の決まり事について説明していきたいと思います。

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