NHK杯のあの一局、もし二歩を打たなかったらどうなっていたか?~Part1:豊川孝弘 vs 田村康介戦~


NHK杯将棋トーナメントでは、2016年10月現在、二歩の反則負けによって勝敗が決してしまった将棋が計3局存在します。

本記事から計3回、それぞれの対局において、「もし二歩が打たれずに対局が続行していたら、どのような展開になっていたか」というのを解析していきたいと思います。

図1

本局(豊川-田村戦)の概要

今回題材とする一局は、2004年5月31日のNHK将棋トーナメントで放送された、第54回NHK杯戦の1回戦で、豊川孝弘(当時)六段と田村康介(当時)五段が対戦したもので、先手の田村六段のゴキゲン中飛車に対して、豊川五段が▲2四歩と早めに仕掛け、田村が△3に金と、超急戦を避ける展開から始まりました。大駒が飛び交う激しい中盤戦ののち、後手が若干優勢になったかという局面において、先手が第1図のように、▲2九歩と打ってしまい、二歩の反則のため、その瞬間に後手の田村六段の勝利が決まってしまいました。

本局はの決着の瞬間は、様々な動画サイトでも見ることができ、「テレビ対局として初めて反則で決着がついた一局」として、解説の塚田九段の「あ、打っちゃったよ、打っちゃった!!」というセリフや、聴き手の千葉涼子女流の「あ~!」という悲鳴も含めて、将棋ファンの中では非常に有名な一局となっています。

▲2九歩に代わる手は?

図2

第2図は、問題の▲2九歩が打たれる1手前の局面で、先手番です。先手陣は非常に硬く、駒得もしているものの、3八の角はほぼ取られることが確定しており、攻めの手も少ないため、やや劣勢であることは免れない局面です。手筋の▲5二歩も、二歩で打てません。しかし、投了をするほど大差がついた局面では、ないように思います。

香を取る▲5五歩

解説の塚田泰明九段は、この時点で▲5五歩と、香を取る手を解説をされていました(第3図)。

図3

▲5五歩以下は、△3八成桂 ▲5九金寄 △2六角といった展開が考えられます(第4図)。

図4

しかし、この順は先手でボロッと角を取られて、その代償が香だけなので、先手としてはかなり悔しい手順でしょう。更に、最後の△2六角が好手で、次の△1九竜~△5九角成の二枚替えを見つつも、自陣の6二や7一の地点に利かせた気分の良い攻防手になっており、この図はハッキリ後手が勝ちになっていると思います。

金を打って粘る▲2九金

今度は、▲2九金と、金を投入して粘る手を考えてみます(第5図)。
図5

これは、本譜で打ってしまった▲2九歩と意図することは同じで、竜に働きかけた手です。歩が打てないのなら金を打ってみてはどうだろうというものです。

この手に対して、△3八成桂 ▲2八金 △4九成桂とするのは、先手に二枚飛車の攻めを許すことになるので、優勢と思っている後手は、この手順は指しにくいかと思います。

したがって、▲2九金の後は、△2六竜 ▲5五歩 △3八成桂 ▲同金右 △2九竜 ▲4八金寄 △1九竜 という展開が考えられます(第6図)。

図6

手順中▲5五歩のところで▲2七歩は、やはり二歩でいけません。

第6図は、後手が角金交換の駒得ですが、先手陣は金が4枚並んだ、見たことのない囲いになっており、すぐには負けない形です。おそらく、ここから後手は、金4枚は相手にせずに、手薄な左辺から攻めてくることになるでしょう。どこかで△4三角などの筋が決め手になるかもしれません。先手は▲6六香という手が、1つの狙い筋になりそうです。

この図は、僕が所持しているソフト(激指10)にかけたところ、評価値は後手の+500と出ました。さすがに後手が良いという評価ですが、このくらいの将棋ならプロの対局でも頻繁にひっくり返っており、仮に僕程度の棋力の人間が、後手の田村先生の代わりに指したら、おそらく10手くらいで逆転されてしまうくらいの差でしかありません。

最後の△1九竜という手も限定ではありませんが、いずれにしてもこの変化であればしばらくは熱戦が続いていたでしょう。

まとめ

結論としては、二歩を打たなくても後手優勢は間違いなかったようですが、▲2九金から粘りに行けば、まだまだ熱戦が見られたのではないかと思いました。

豊川先生も、▲2九歩を第一感として指したくらいですから、▲2九金という手も読みには入っていたでしょう。感想戦では、主に第2図に至る手順が検討され、第2図以降の変化については全く並べられませんでしたが、プロとして二歩を打ってしまったことは、その勝敗以上に悔やんでいるのではないかと思います。

NHK杯で二歩で勝敗が決定した残りの対局については以下をご覧ください。

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