これまで、詰将棋の基礎的なルールや、玉方の最善手の選択方法などについて、紹介してきました。
今回のテーマは、「攻方に詰ます手が複数ある場合のルール」となります。
この文章を読んで、「攻方に詰ます手が複数!?そんなわけないじゃん」と思われた方は、詰将棋について、よくご存知の方だと思われます。
「複数の詰ませ方がある」ことを「余詰」(よづめ)がある、という表現するのですが、ご存知の通り、書籍やアプリ等で発表されるような詰将棋は、原則として、余詰がないように作られています。何故かというと、余詰がある作品は、答えを一通りに絞ることができず、詰将棋の作品として認められないからです(この点は創作のページで詳しく紹介します)。
それならば、何故、本記事で「攻方に詰ます手が複数ある場合のルール」をわざわざ紹介しようとしているのでしょう?実は、詰将棋の中には、「『余詰』とまでは呼ばないけど、詰まし方が一通りに絞れないケース」というのが何パターンか存在するのです。今回は、それぞれのパターンにおいて、解答者がどの手を最善手とすべきかを解説しようと思います。
攻方の指し手に関するルール
詰将棋のルールの全体像については、下記の記事に記述しました。
そのうち、攻方の手に関するルールは、以下のように記述しています。
- 攻め方は迂回手順を指してはいけない。
- 非限定がある場合、どの手を選択しても良い。
今回は、その「迂回手順」や「非限定」について、どのようなものであるか、および、それらの局面が発生した時に、どの手を選べばよいのかについて説明していきたいと思います。
攻め方は迂回手順を指してはいけない。
「余詰ではないが、詰ませ方が複数ある」ケースの一つが「迂回手順」です。迂回手順とはどのようなものでしょうか?
図1をご覧ください。
図1の作意手順(正解手順)は、▲34馬△14玉▲25銀△同馬▲23馬(図2)までの5手詰めです。
ここで、3手目の▲25銀の代わりに▲23馬(図3)と馬で王手をするのはどうでしょうか?
これには△25玉(図4)と逃げるしかありませんね。
この図4ですが、よく見ると、図1と全く同じ局面になっているのがわかります。ということは、この局面から▲34馬△14玉▲25銀としても、やはり詰ますことができます。
▲34馬~▲23馬という馬の往復運動は、玉方からは打開できませんから、攻方がこの順を指し続ける限り、いずれは千日手になってしまいます。しかし、将棋のルールを思い出してみてください。「連続王手の千日手は反則負け」というルールがありますよね?通常の将棋における禁じ手は、詰将棋でも禁じ手ですから、▲23馬~▲34馬を何度も繰り返すのがダメというのはわかると思います。
しかし、千日手は、「同一局面4回」が条件ですから、「同一局面3回」までなら出現してもよさそうに見えます。
具体的には…
▲34馬△14玉▲23馬△25玉(ここで同一局面2回出現!)
▲34馬△14玉▲25銀△同馬▲23馬 までの9手詰め
▲34馬△14玉▲23馬△25玉(ここで同一局面2回出現!)
▲34馬△14玉▲23馬△25玉(ここで同一局面3回出現!)
▲34馬△14玉▲25銀△同馬▲23馬 までの13手詰め
これらの手順は、実戦なら反則になりません。そうなると、複数の詰ませ方があることになるので、「余詰」で作品に不備がある…ということになってしまうのでしょうか?
実は、詰将棋だけの話として、「同一局面が2度出現したら、その時点で不正解とする」、という決まりごとがあるのです。実際、「ミクロコスモス」を初めとして、長手数の繰り返し手順を含む詰将棋等のほとんどは、千日手含みの局面が存在するので、上記のような手順を余詰とみなしてしまうと、ほとんどの名作詰将棋がボツになってしまいます。
よって、図1の詰将棋は5手詰めのみが正解で、▲23馬~▲34馬という手順が含まれる9手詰めや13手詰の順は、いずれも不正解となります。「詰んでいるのに不正解」というのは納得がいかないかもしれませんが、そういうものと割り切っていただければと思います。
千日手含みの局面以外にも、迂回手順が発生する例があります。
図5をご覧ください。
この図は、長手数の詰将棋等の収束(詰将棋の最後の締めの部分のこと)に登場することが多い局面です。初手は▲22とや▲12とのような手では詰まないので、▲21銀成と捨てます。△同玉の一手に、▲32角成△11玉と進んで、図6の局面を迎えます。
図8からは、▲22馬または▲22とのいずれでも詰みですね。これは、後に述べる「最終手余詰」で、どちらも正解となるのですが、問題はそれ以外の手です。
ちょっとひねくれて▲33馬(図7)と王手したらどうなるでしょうか?
合駒を打っても意味がありませんから、△21玉とするしかありませんが、▲22馬(または▲22と)とすれば、結局詰んでしまいますね。
更にひねくれて、図6から、▲33馬△21玉▲43馬△11玉▲44馬△21玉▲22と(図8)と詰ますこともできます。
更に更にひねくれて、馬をジグザグに移動してどんどん遠ざかることもできますから、かなり多くの詰ませ方があるようにも見えますよね?
しかし、これらの手順は全て不正解となります。
「1手で詰んでいるのに、わざわざ3手以上もかけるな」ということですね。本来とは異なる手で詰んでしまうので「余詰」のようですが、図5のように「最後の1手詰」に限り、他の手順で詰んだとしても「余詰」とは呼ばず「迂回手順」の一種として、詰将棋の作品として成立させることがあるのです(後述する「最終手余詰」という用語で呼ぶこともあります)。
以上のような理由で、図5の詰将棋の解答は、▲21銀成△同玉▲32角成△11玉▲22馬 または、▲21銀成△同玉▲32角成△11玉▲22との2種類のみで、これ以外の解答は不正解となります。
余談ですが、「スマホ詰パラ」というアプリでは、最終手で迂回手順を指した場合に「打ち切り正解」となることがあります。例えば、図7の▲33馬と指した時点で、「正解」と表示され、詰将棋を解けたことになるのです。まだ詰みあがってないのに「正解」と表示されるので不思議な感じですが、解く方への救済措置ともいえます。スマホ詰パラアプリの中でも、問題によってはこのような手順が「不正解」になることもありますし、雑誌の懸賞詰将棋等でこのような手順を回答した場合、不正解とされても文句は言えません。1手で詰ます手がある場合は、必ず1手で詰む手を回答するようにしましょう。
ちなみに、「1手で詰ますところを3手で詰ますのがダメなら、3手詰を5手で詰ますのもダメなの?」という疑問もわいてくるかもしれません。
しかし、この疑問は、ほとんどの場合、心配する必要はありません。というのも、「3手詰を5手で詰ます順がある」ような問題は、「迂回手順」等ではなく、完全な「余詰」であり、通常そのような問題は出題されないからです。
ただし、アプリや個人サイトの中には、余詰が存在するものを平気で出題しており、しかも、最短手数で詰まさないと不正解にされてしまうものも、多く存在します。個人的にそういったアプリやサイトはおススメしませんが、どうしても解きたいのであれば、最短手数の詰みを見つけるようにしましょう。
非限定がある場合、どの手を選択しても良い。
続いて、「非限定」について紹介していきます。「非限定」と言うと、前回の記事に出てきた玉方の「非限定合」がありましたが、今回紹介するのは「攻方の非限定」です。
図9をご覧ください。
初手▲23桂は、△22玉とされて詰みそうにありませんから、初手は離して角を打つしかなさそうです。そこで、▲33角と打ってみましょう(図10)。
22の地点に合駒を打つのは、▲23桂とされて、金を使わずに詰んでしまいます。そこで、△22歩(図11)と歩を移動して合駒します(このような合駒のことを「移動合」と言います)。
図11以下は、▲23桂△21玉▲31金まで、ピッタリ詰んでいます。初手からの解答は、▲33角△22歩▲23桂△21桂▲31金までの5手詰めとなります。
この解答で100点満点なのですが、実は、この詰将棋、他にも詰ませ方があります。
初手で▲33角ではなく、▲44角と打ったらどうなるでしょうか?(図12)。
図12以下、33の地点に合駒をしても意味はありませんので、結局、△22歩▲23桂△21玉▲31金と進み、先ほどと同じように詰んでしまいました。
同じ考え方で、初手▲55角、▲66角、▲77角、▲88角、▲99角のいずれを指しても、5手で詰んでしまいます。
▲33角や▲44角も含めると、全部で7通りもの詰ませ方が存在することになりますが、これらの手はどれを選んでも、2手目以降の手順は全く変わりません。初手の角の位置だけが違います。
このように、大駒(飛車角)や、香車の打ち場所が複数あり、どこに打っても同じように詰むことを、「打ち場所非限定」や「非限定打」等と言います。そして、「非限定打」は「余詰」とは別物とみなされており、解答者は「どれを選んでも正解」となります。
つまり、図12の詰将棋には、計7通りの正答があるわけです。
しかし、大駒や香車を遠くから打つ詰将棋が、どれも非限定打ばかりとは限りません。
例えば、図13。
香で王手をするのが正解ですが、正解は、▲15香のただ一つしかありません。
打ち場所非限定とばかりに▲19香等とすると、△16歩(図14)と受けられてしまいます。
以下、▲16同香は、△同桂で不詰み。
このように、大駒や香車の打てる場所がたくさんあるけど、正解が1か所しかないことを「限定打」と呼びます。「非限定打」の逆ですね。
大駒や香を打って王手する場合は、「どこに打っても詰み」と感じても、途中に駒が効いていないかどうか、よく確認するようにしましょう。
他にも「非限定」と呼ばれるものはあります。その一つが、先ほども少し出てきましたが、「最終手余詰」(さいしゅうてよづめ)と呼ばれるものです。
図15の詰将棋を考えてみてください。
初手は▲11角成とカッコよく捨てます。△同玉と取るしかなく、図16となります。
この局面では、▲22桂成と▲22と、の2通りの詰ませ方があります。
複数の詰ませ方があるため、これは「余詰」と言えそうです。しかし、図16のように最後の一手詰めの局面で複数の詰ませ方がある局面は、「余詰」は「余詰」でも、「最終手余詰」(さいしゅうてよづめ)として区別し、通常の「余詰」のように作品の不備とはみなしません。
では、解く方はどちらを選択すればよいかというと、実はどっちでも構いません。
図15の詰将棋の場合、▲11角成△同玉▲22と、でも、▲11角成△同玉▲22桂成でも、どちらでも正解となるわけです。
ちなみに、図6のように、「片方が1手詰め、もう片方が3手以上」という場合も「最終手余詰」と呼びます。つまり、最終手余詰には、どちらを選んでも正解の「非限定」の場合と、不正解となる「迂回手順」の場合のどちらも存在する、ということになります。
「非限定」には他にもパターンがあります。
図17をご覧ください。
初手▲12飛成や、▲12角成とするのは、王手は続きますが詰みません。正解は、▲11飛成(図18)と捨てる手です。
図18以下、△同玉に、▲12銀までの3手詰めとなります。
では、ここで▲11飛成とした手の代わりに△11飛不成(図19)としたらどうなるでしょうか?
この場合でも、玉方は△11同玉と取るしかありません。最後はやはり▲12銀で詰みとなります。
したがって、図17の詰将棋には、「▲11飛成△同玉▲12銀」と「▲11飛不成△同玉▲12銀」という2通りの詰まし方があることになります。
このように、攻方が成っても成らなくても、全く同じ手順で詰む場合も、「余詰」とは言わず「非限定」と言い、どちらを選んでも正解となります。
ただ、どちらを選んでも正解とは言っても、図17の局面で飛車不成を行う意味は全くありませんよね。ですから、特に理由がない限り、「成でも不成でも詰む場合は、成る」ように習慣づけておいた方が良いと思います。
ちなみに、「成ったら詰むが不成だと詰まない」局面では、「成」を選択しないといけません。
例えば、図20。
先ほどの図と似ていますが、この図の場合は、「▲11飛成△同玉▲12金」が唯一の正解です。初手▲11飛不成とするのは、△22玉とされて詰まないため、不正解になります。
アプリで解く場合は間違えることは少ないでしょうが、解答を紙面で書く場合は、▲11飛成の「成」を忘れないようにしましょう。「成」を書かなかった場合、採点者の判断によっては、不正解にされてしまうかもしれません。
逆に、「成ったら詰まないが、不成だと詰む」局面では、「不成」を選択しないといけません。
入門者の方は、「後者のような局面なんて存在するの?」と思われるかもしれませんが、銀や桂馬や香はもちろん、飛車、角、歩ですら、「不成じゃないと詰まない」という詰将棋が、山のように存在します。そういった作品は、おいおい紹介していきたいと思います。
まとめ
本記事では、「余詰ではないが、攻方に複数の詰ます手がある場合」というのが、どのようなものがあるか、ということと、それらの場合にどの手を選択するのが正解になるのか、について述べてきました。
千日手含みの迂回手順、非限定打、成不成非限定、最終手余詰等の用語が出てきましたが、以下のように分類することができるでしょう。
・(攻方の手が)他と比較して手数が伸びるような順は不正解
・(攻方の手が)他と比較して手数が変わらず詰めば、いずれも正解
前者は千日手含みの迂回手順や、3手以上の最終手余詰等。後者は、非限定打や成不成非限定、最終手余詰のうち1手のものです。
上記で「手数が伸びる順は不正解」と書きましたが、前回の記事で玉方の最善手のルールを説明した時は、「手数が伸びる方が正解」と説明しました。
「あれ?伸びる方が正解なの?不正解なの?」と混乱してしまいそうになりますが・・・
・玉方は手数が伸びるように逃げる
・攻方は手数が伸びないように攻める
ものすごく簡単に言ってしまえば、上のようにまとめてしまっても問題ないでしょう。駒が余る・余らない等のケースもあるので、これだけというわけではありませんが。ちなみに、このことを専門用語で、「攻方最短、玉方最長」等と言ったりします。
何故、最初から上の2行だけで済ませず、グダグダと長ったらしい説明を書いてきたかというと、様々なパターンを、実例を通して知っていただきたかったからです。文章だけでは、書いている方も読んでいる方も嫌になってしまいますし、理解もされにくいと思います。
本記事の内容までマスターしていただいた方は、「詰み手順も相手の変化も完全に読み切っているのに、詰将棋の解答を間違って書いてしまった」等という事は、ほとんどないと言っていいでしょう。
以上で詰将棋を解く際のルールを終えてもいいのですが、1つだけ厄介なルールが残っています。
それが「2手変長」の特例と呼ばれるもので、次の記事で説明していこうと思います。